Q&A ADHDなんて嘘、本当はただの甘え?
こんにちは!
足立区北千住カウンセリングルームすのわ・臨床心理士の南です。
この記事は、ADHDの部下への接し方に悩んでいる方からの質問に対してお答えする内容です。
※プライバシーに配慮し、内容は一部改変したり伏せたりしています。
☆この記事を読んで欲しい人はこんな人
■ADHDの後輩・部下を持つ先輩・上司
■ADHDの後輩・部下への関りで悩んでいる先輩・上司
私は部下10人ほどの部署で管理職をしている50代男性です。
昨年、新卒で配属された部下の一人(男性)がADHDではないかと思われます。
繰り返し同じようなミスをする、遅刻や忘れ物が非常に多い、仕事の期限を超過しても平然としている、整理整頓ができず机や鞄の中身がぐちゃぐちゃ、叱られても手応えがない、といった状態です。
被害は小さいものの取引先に迷惑をかけており、個性の範囲を超えていると思われますが、注意や処分では改善する様子がなく、上司として持て余している状態です。もしADHDであれば本人が悪いとも言い切れず、かと言って放置しておくわけにも行きません。
まだ本人に面と向かってADHDという言葉を出したことはありませんし、本人もおそらく診断等は受けていないと思うのですが、今後の関係改善に向けてミーティングを設けるとしたら、どのような切り出し方で、何を伝えればよいのでしょうか。
私としては、病院に行ってきちんと診断を受け、もし治療や訓練などが必要であればそうした方が本人にとっても良いのではないかと考えていますが、それを傷つけずに(高圧的にならずに)言う自信がありません。
また当面はこのままの配置で仕事をすると思われるので、治療や訓練とは別に日々の接し方(仕事の割り振り、進捗の管理などの声掛け)も大きな課題です。
こうしたケースは初めてなので、私にそのつもりがなくても無自覚なまま人権侵害やハラスメントになってしまわないかビクビクしています。よい伝え方についてアドバイスいただければ幸いです。
ご相談ありがとうございます。
繰り返しのミス、遅刻、忘れ物が多い、期限を守れない、整理整頓が苦手など、相談内容から推測するに、部下の問題行動の背景にADHDが隠れている可能性は十分にありそうです。
ADHDの可能性が認められるのであれば、それを本人も周りも正しく理解して、その特性に合った対応をしていくことがベストです。
しかしながら相談者のあなたが「不用意にADHDという言葉を使ってしまうと、ハラスメントになるのではないか?」と心配して、ADHDについて指摘することを躊躇してしまうのも、昨今のハラスメントに敏感なご時世を考えると当然かと思います。
あなたは「ADHD」という言葉を本人に伝えることに対して、慎重になっているようですね。それはとても大切な感覚です。というのも本人の感じ方によっては、「障害者扱いをされた」と被害的に受け取られてしまう可能性があるからです。
この記事では本人を傷つけることなく、ADHDの部下の特性をサポートするための方法と、ADHDについての切り出し方のヒントをお伝えします。
ADHDの言葉を使わずにできる対策からスタート
本人がADHDかどうか不明な場合は、一旦ADHDという言葉は使わずに、できる対策を一緒に考えるところからスタートしてはいかがでしょうか?
ADHDという診断がなくともできるサポートは色々とあります。
今回の相談内容に即した“ちょっとだけ”のサポート例を紹介しますので、話し合いのヒントにしてみてください。
特性①同じようなミスを繰り返す
対策:ミスに対して傾向と対策を考える。対策としては「意識する」などの精神的なものではなく、ミスを減らす仕組みづくりをしましょう。
例えば、書類のミスが多いならば、どこをミスしやすいか傾向を分析して、チェックリストを作ります。チェックリストを使って確認する仕組みを作る“だけ”でミスを減らすことができます。
特性②遅刻が多い
対策:ADHDで遅刻癖を持っている人は、ギリギリに到着する予定を立てがちです。「15分前に到着するように予定を立てる」“だけ”で、遅刻を減らすことができます。
特性③忘れ物が多い
対策:取引先に持っていくものを度々忘れてしまうのなら、持ち物のチェックリストを作って、出かける前にチェックする“だけ”で忘れ物を減らすことができます。
以下の記事にも具体的なサポート例を書いていますので、参考にしてください。
Q&A ADHDなんて嘘、本当はただの甘え?
https://sunowa.net/20200301-adhd-3537/
これらの対策をしたうえで、それでも問題が変わらないようなら、次の段階に進みましょう。
本人の努力を認めたうえで、断定ではなく、可能性として伝える
ADHDについてどのような伝え方が良いかのポイントをお伝えします。
ポイント① 一方的に欠点を責めるのではなく、頑張りを認めることろから始める
改善しているところや頑張っているところに注目して、認めてあげることで良い関係を作ることができます。あなたが部下を嫌って意地悪しているわけではなく、期待や心配をして気にかけているのだというシグナルを送ることで、部下が萎縮せず自分の状態や気持ちを話せる雰囲気を作りましょう。
ポイント② ADHDと決めつけるのではなく、可能性の1つとして提示する
ADHDかどうかの判断ができるのは医師だけです。ネットでの自己診断などは参考でしかなく、勝手にADHDだとレッテルを貼ることは厳禁です。また人は決めつけられると反発をしたくなるものです。あくまで可能性の一つとして提示して、思い当たるところがないか部下自身に考えてもらいましょう。
ポイント③ 病院の受診や職場での配慮など解決策をセットで話す
問題を指摘されただけでは、ただ落ち込んでしまい逆効果になる恐れもあります。。改善策・解決策とセットで伝えることで、自身の状態をよりよくして仕事をスムーズにこなせる展望が開け、改善に向けての努力を前向きにとらえることにつながります。
これら3つのポイントを踏まえて、以下のような伝え方を試してみるとよいのではないでしょうか?
「これまで色々工夫して、改善している部分は大いに認めたい、しかしながらまだミスが多く、君も苦しんでいるように見える(ポイント①)。以前に君と似たことに悩んでいた部下がいたのだけれど、可能性の一つとして、その部下がどのように問題を解決していったかを話してもよいかな(ポイント②)」と切り出してみます。
前向きな反応であれば「その部下がADHDという診断を持っており、病院で治療を受けることで問題を改善できたんだ(ポイント③)」「職場で苦手な仕事を減らして、得意な仕事を増やすような配慮も検討したい(ポイント③)。会社が柔軟な対応をするためには、診断書があった方が理由を説明しやすく、スムーズだ」というような内容を伝えましょう。
このように可能性として伝えると、押しつけにならずに済みます。また治療することで問題が解決するという希望も一緒に伝えることができるので、単に問題を指摘されただけの場合に比べ、落ち込んでしまう事態を避けられます。
「ADHDの部下を正しく理解してサポートしたい」という相談者のあなたの強い思いがあれば、この記事で書いたヒントを参考にして、きっと部下の力を引き出してあげられるでしょう。
カウンセリングルームすのわでは、職場でADHDの(可能性がある)部下や同僚との関係に悩んでいる方からのご相談を受け、アドバイスを行っています。こうした記事に書けるのはあくまで一般論でしかなく、すべてのケースに通じる100点の解決策ではありません。個別のご事情を伺ってみなければ本当に効果のある対策をお答えすることは難しいので、もし日頃から悩んでいることがあればご相談ください。
この記事のまとめ
・ADHDという言葉を使わずにできる対策から試してみる
・本人の頑張りや改善点を認めてあげて、良い関係を作っておく
・ADHDを話題に出すときは、断定ではなく、可能性の一つとして提示する