「とても敏感な人」=HSP、「とても敏感な子ども」=HSCが自分のギフトに気づき活かすために大切なこと
こんにちは!
足立区北千住 カウンセリングルームすのわ・臨床心理士の南です。
ここ数年とても注目されるようになっている「とても敏感な人」=HSPまたは「とても敏感な子ども」=HSCについて解説します。
「職場で怒っている人がいると、自分に対してではなくとも、自分も怒られているように強く感じてしまう」
「大きな街や駅など人込みの中にいると人に酔ったように疲れてしまう」
「相手の気持ちに左右されやすく、人の顔色をいつも気にしている」
「一度にたくさんのことを頼まれると、頭が真っ白になってしまう」
「世間の悲しいニュースを聞くと、ひどく落ち込んでしまう」
これらはどれもHSPの人の日常での困り感です。
すのわに相談に来られるクライアントさんやADHD交流会に参加される人の中には、ADHDと合わせてHSPの特性も持たれている方が多くいます。ご本人の生きづらさの背景にHSPもある場合は、HSPについてもしっかり理解し対策を立てることが大切です。
この記事を読めば、HSP,HSCについて大まかな知識と、その対策のためにどんな方向性があるか、といった道しるべを得ることできます。
HSP、HSCとは、そもそもどんな人?
HSPとはHighly Sensitive Personの頭文字をとったもので、「非常に敏感な人」という概念について、アメリカのエイレン・N・アーロン博士が提唱し、全世界に広がっています。
HSCはHighly Sensitive Childの頭文字で、「非常に敏感な子ども」の意味で、HSCの子どもが成長するとHSPの大人になります。
アーロン博士自身がHSPであり、ご自身の苦労から、HSPについて研究し整理して世に発信しました。そのため著書の中にはHSPへの愛が多く見られます。
HSPは病気や障害でありません。生まれ持った体・脳・神経の気質です。病院に行って診断をもらって治すものではなく、自分の性質を正しく理解して、上手く付き合っていくことが大切です。
またアーロン博士はHSPは全人口の15%~20%の人にみられる特徴であり、人種によって変わらず一定の割合でみられ、男女の比率も同じであると報告しています。
発達障害の自閉症スペクトラム障害(ASD)も特徴として感覚過敏があるため、ASDとHSPを混同してしまいがちです。確かにASDの特徴には感覚の過敏さがあり、そこは共通しています。しかしASDは人の気持ちに気づきにくい、空気を読めない特性があるのに対して、HSPはむしろ人の気持ちを人一倍気にしてしまう傾向があり、実際に人の気持ちを読むのはとても得意という点で大きく違います。ただ敏感さへの対処方法には多くの共通点はあります。
HSPのチェックリスト
以下にアーロン博士の本の中にあるHSPの自己テストを引用します。
以下のの質問のうち12個以上に「はい」と答えた場合はおそらくHSPでしょう。しかし12個未満の人でも、該当する項目の度合いが極端に強いならHSPである可能性はあります。症状の個数にこだわるよりも、度合いの強さに注目したほうがよいでしょう。
1.自分を取り巻く環境の微妙な変化によく気づくほうだ
2.他人の気分に左右される
3.痛みにとても敏感である
4.忙しい日々が続くと、ベッドや暗い部屋など、プライバシーが得られ、刺激から逃れられる場所にひきこもりたくなる
5.カフェインに敏感に反応する
6.明るい光や強い匂い、ざらざらした布地、サイレンなどの音に圧倒されやすい
7.豊かな想像力を持ち、空想に耽(ふけ)りやすい
8.騒音に悩まされやすい
9.美術や音楽に深く心動かされる
10.とても良心的である
11.すぐにびっくりする(仰天する)
12.短時間にたくさんのことをしなければならない時、混乱してしまう
13.人が何かで不快な思いをしているとき、どうすれば快適になるかすぐに気づく(たとえば電灯の明るさを調節したり、席を替えるなど)
14.一度にたくさんのことを頼まれるのがイヤだ
15.ミスをしたり、物を忘れないようにいつも気をつける
16.暴力的な映画やテレビ番組は見ないようにしている
17.あまりにもたくさんのことが自分のまわりで起こっていると、不快になり、神経が高ぶる
18.空腹になると、集中できないとか気分が悪くなるといった強い反応が起こる
19.生活に変化があると混乱する
20.デリケートな香りや味、音、音楽などを好む
21.動揺するような状況を避けることを、普段の生活で最優先している
22.仕事をする時、競争させられたり、観察されていると、緊張し、いつもの実力を発揮できない
23.子供のころ、親や教師は自分のことを「敏感だ」とか「内気だ」と思っていた。
(出典:「ささいなことにもすぐに動揺してしまうあなたへ」)
(著者:エイレン・N・アーロン)
※23に「内気だ」という内容がありますが、HSPの中には刺激から遠ざかる内気なタイプだけでなく、逆に刺激を求める外交的なタイプもいます。
上記の項目の中でも、以下の項目はADHDの方の症状とも共通しているものが多いように思います。
7.豊かな想像力を持ち、空想に耽(ふけ)りやすい
12.短時間にたくさんのことをしなければならない時、混乱してしまう
14.一度にたくさんのことを頼まれるのがイヤだ
15.ミスをしたり、物を忘れないようにいつも気をつける
17.あまりにもたくさんのことが自分のまわりで起こっていると、不快になり、神経が高ぶる
とても敏感な人HSP、とても敏感な子どもHSCの4つの特性
アーロン博士はHSPやHSCには、4つの特性があると説明しています。4つすべてが当てはまらないならHSP、HSCでないとまで言っています。上記の23個のチェックリストも参考になりますが、この4つの特性の方がHSP・HSCについて本質的な理解しやすいかと思います。
“私はこの根底にある性質には「4つの面がある」と説明しています。つまり、人一倍敏感な人にはこの4つの面が全て存在するということです。4つのうち1つでも当てはまらないなら、おそらくここで取り上げる「人一倍敏感」な性質ではないと思います。”
(エイレン・N・アーロン『ひといちばい敏感な子』)
①深く処理する
HSC,HSPは脳のレベルで、物事の表面だけでなく、複雑で細かいところを認識するようにできているようです。つまり情報を「深く」処理しているのだといえます。具体的には、ある研究ではHSPは非HSPよりも、脳内の島(とう)と呼ばれる部分が活発に活動していたそうです。島(とう)皮質は感情の認識や共感と関連が強い部分と言われています。HSPの人は表面だけでなく、情緒面まで深く情報を処理するのが特徴です。
以下のような特徴が見られます。
- ものごとの本質を衝くような深い質問をする
- 年齢のわりに大人びたことを言う
- ユーモアのセンスがある
- あれこれ可能性を考えて、なかなか決断ができない
- じっくり観察してから考えるので、初めての人や場所に対して、行動を起こすのに時間がかかる
②過剰に刺激を受けやすい
自分の内外で起こっている刺激の全てに人一倍気がつき、処理するため、精神的に大きな負荷がかかりやすく、心身の疲労を感じやすい。HSPの人が疲れやすいのは、この過剰に刺激を受ける性質によるところが大きいでしょう。
以下のような特徴が見られます
・刺激の多い楽しいイベントの後に、ストレスを感じてぐったりする
・興奮することがあった日の夜には、眠れずに目がさえてしまう
・痛みに極端に反応する
・大きな音、暑さ、寒さ、自分に合わない靴、チクチクする服に対して大きなストレスを感じる
③感情の反応が強く、共感力が高い
HSPは非HSPに比べて、周り人の感情に対して強く反応します。その背景にHSPはミラーニューロンの働きがより活発という研究結果があります。ミラーニューロンとは、まるで鏡に映すように、他人の感覚を自分の神経が自分の事として感じる神経です。ミラーニューロンが働くことで、他人が水を飲んでいるのを見たときに、あたかも自分も水を飲んだように感じること出来ます。つまりHSPはミラーニューロンの働きが強いために、共感力が強いと考えられます。
以下のような特徴が見られます
・他人の気分に左右される
・悲しいニュースを見ると、自分の事のように悲しくなる
・怒っている人を見ると、強く反応する。(自分もイライラする、怖く感じる)
④ささいな刺激を察知する
小さな音、かすかな匂い、ちょっとした触感の違い、ほんのわずかな味の違い、人やもののささいな変化、など多くの人が気づかないような小さな刺激に気がつきます。
HSPの脳活動を調べた研究では、似た写真を見て違いを見つける実験において、HSPは非HSPに比べて脳がより活発に動いていたそうです。
以下のような特徴が見られます
・人や場所の外見上の小さな変化に気づく
・遠くの鳥の声や飛行機の音に気がつく
・人の表情の微妙な変化に気がつく
HSPの欠点を強みに変えるコツとは?
以上で見てきたようなHSPの特性によって、敏感さのために傷つき、生きづらく感じてしまう方も多くいるかと思います。
以前にADHD交流会でHSPをテーマにした回の際に、自己肯定感に低さに苦しんでいるHSPの方が多くいました。
そのような欠点として捉えてしまいがちな、敏感さを強みに変えるコツを教えます。
まずはHSPについて正しく知ることが重要です。HSPの特性は生まれ持っての特性であり、あなたが気弱や、臆病であるわけではありません。この敏感な特性は、他の生物にも一定の割合で存在することが分かっています。
つまりはそれぞれの種にとって、敏感な特性は必要とされるから存在している訳です。
次に大切なことは、“あなたの生まれ持ったHSPの特性を受け入れる“ことです。あなたはこれまでに「そんなこと気にするのはおかしい」「気にしすぎだ」と自分の感性を否定されてしまうことから、自分でも「自分の感じ方はおかしい」と思ってしまっていないでしょうか?
あなたにはあなたの感じ方があって、あなたの感じ方に対して他人が正しい、正しくないを決めることはできないのです。
そして敏感さについて欠点として捉えるのではなく、敏感さの強みに注目することも更に重要です。
マイケル・プルースという研究者は「敏感力」という、敏感さのポジティブな側面に注目しました。彼の研究から、HSCは周囲の良い情報(愛、心遣い、有益なアドバイス、美しい芸術、面白い情報)に対して、他の子どもよりも目を向けて、プラスになることを吸収していると言えると結論づけています。つまりHSCやHSPは、ポジティブな情報に対しても「敏感力」を持っているため、周囲のより良い影響を受けることも出来るのです。
敏感さを強みとして捉えて活用することはとても大切ではあります。
しかし「日々の生活で、いろんな刺激に圧倒される辛さはどうしたらいいんだ」という声が聞こえてきそうですね。
アーロン博士も著書で、「神経の高ぶりすぎの対処する戦略」の必要性について書いています。
“あなたが都会の広大な駅で人込みに圧倒され、恐怖を感じたとする。あなたは自分の乳幼児(=敏感すぎる身体)を落ち着かせるために何かをしなければならない。この場合、自分の恐怖を見つめ、心理的に落ち着かせるという手もある”
『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ』エイレン・N・アーロン
心理的な対処としては、自分の神経の高ぶりについて、注意深く観察することが大切です。そして、神経が高ぶっている自分に対して、自分の中の赤ちゃんが怖がっていると考えて、なだめてあげるような声をかけてあげましょう。決して自分に対して「恐れるなんて弱虫だ」などの責める言葉は使わないようにしましょう。
「物理作戦(身体的なアプローチ)」も効果的です。
これは色々な方法があるので、別の記事で色々と紹介したいと思いますが、簡単なところでは「水を飲む」ことがお勧めです。水分を取ることで脳のストレスを軽減することができます。この際にはお茶やコーヒーではカフェインの影響で体の水分が出てしまうので、水であることが大切です。
刺激に対して敏感なわけですので、刺激を減らすことも当然大切です。楽しい予定でも続いて参加すれば、刺激として圧倒されてしまいます。楽しい行事が続いた後には、「ダウンタイム」といって、ゆっくりくつろいだり、ぼーとする時間を意識して入れましょう。
アーロン博士は以下のようにHSPへ愛をこめてメッセージを送っています。
最後にアーロン博士の言葉を引用して終わります。HSPの皆さんが素敵に輝けますように。
世界は素敵に成長したHSPを必要としています。~中略~
皆さんに送りたいいちばん重要なメッセージが見えてきました。それは、世界は素敵に成長したHSPを必要としていることです。これは切実です。慎重に考え、深く感じ、ささいなことに気づき、最終的には大局を見ることができる人材を、今ほど必要としている時代はありません。これからもっと必要となるでしょう。
(エイレン・N・アーロン『ひといちばい敏感な子』より。引用)
カウンセリングルームすのわでは、HSP、HSCについての相談もお受けしています。