Q&A「仕事を辞めてきた」と突然告げたADHDの夫に対しての妻として何が出来ますか?
こんにちは!
足立区北千住カウンセリングルームすのわ・臨床心理士の南です。
この記事はADHDの夫を持つ妻(いずれも敬称略)からの質問に対してお答えする内容です。
※プライバシーに配慮し、内容は一部改変したり伏せたりしています。
☆この記事を読んで欲しい人はこんな人
・家族から「自分がADHDである」と告げられた人
・家族がADHDで悩んでいて、自分がどのようにサポートして良いか分からない人
質問 夫がADHDで仕事を辞めてしまいました
結婚2年目、0歳6ヶ月の長女の母親です。同い年(30歳)の夫から、自分がADHDだと打ち明けられました。夫は優しいのですが忘れ物やうっかりミスがとても多く、それが原因なのか職場でお客さんとしょっちゅうトラブルを起こしていたようです。叱られるのを繰り返しているうちに仕事が嫌になってしまったようで、ある日突然「仕事を辞めてきた」と言われ、同時にADHDを告白されました。子供がもう少し大きくなったら私は働くつもりでいますが、そんなに高収入は望めそうにないため、夫との共稼ぎが必要だと思っています。このままでは経済的に苦しいので夫にはなんとか普通に働いて欲しいです。しかし、夫が仕事で責められて苦しい思いをしていたことを聞き、また同じように働けと強く言いづらい空気です。今はまだ「ゆっくり休んで、元気になってね」と言えますが、このままズルズルと働かない人になってしまわないか不安です。夫の忘れ物やミスが多いことは、私も何度も本人に注意しましたが改善せず、「またか」とうんざりしている面もあり、少し家庭内がとげとげしくなっている気がします。夫婦の信頼関係が崩れると子育てにも悪影響が出ないか心配しています。このような場合、夫にはどういう風に仕事を探してもらうのがよいでしょうか?私はどのような心構えで、どんな声をかければいいですか?
ご相談ありがとうございます。
夫から「仕事を辞めたこと、そしてADHDである」という突然の告白、急に言われたことへのショック、そして家族の将来についての不安など、大きく混乱してしまっているかと思います。
特にまだお子さんも小さいとのことで、経済的な不安も大きいですよね。そんな心配がありつつも、夫を気遣う思いから強く言えないという優しさも質問から伝わってきます。
今日はこうしたケースでの基本的な対策についてお話しさせてくださいね。
①夫の悩み事をよく聞いて、対策を夫婦で話し合う
こうした場合では、まず現在の夫の不安や葛藤、そしてADHDの症状についてよく理解しようとすることが大切です。
夫の心理として「お子さんも生まれて家族を養っていかなくては」という思いと、「トラブル続きの仕事が辛くて早く逃れたい」という思いの葛藤があったのではと考えられます。
また、ADHDであることを告白することの背景には、「伝えたいけれど、伝えたら嫌われてしまうのでは…」という不安もあるはずです。
まずはそうした心理を汲み、ADHDを告白してくれたことに感謝を伝え、本人がどんな辛さや困難を抱えているか辛抱強く聞いてあげましょう。一言でADHDと言っても状態は様々で、どこに困っているかは人によって異なります。困っている部分が正しくわからないと、適切な対応も難しいのです。
「急に辞めるのではなく、なんでもっと早くに相談してくれなかったの?」という不満もあるかと思いますが、ここで夫を否定してしまうと、心を閉ざしてしまったり、反発的になってケンカになったりするリスクがあります。本人も決して怠けているわけではなく、辛い気持ちを抱えていることを理解してあげてください。
家族に相談せず急に辞めてしまったのは、ADHDで衝動性がある方にはよく見られる行動です。今後の仕事についてはプレッシャーをかけ過ぎないこと、できる範囲で自分もサポートするという姿勢を示しましょう。
ここで将来の不安を強くぶつけてしまうと、焦ってまた合わない仕事を選んでしまい、同じ失敗を繰り返してしまうかもしれません。
そうならないためには、本人がADHDと向き合って、しっかりと対策を考えたうえで次の仕事を探していくことが大切です。
②上手な伝え方を知って、あなたがストレスを抱え込まないようにする
本人がADHDと向き合って改善していくための対策を、夫婦で一緒に考えていくことが大切と言いましたが、あなたが無理して夫に合わせすぎ、常に我慢を強いられるのはよくありません。あなたがストレスを溜め込むと別の問題に発展してしまいますので、直して欲しいと強く感じる部分は正しく伝えるようにしましょう。
あなたが夫に頼んだ用事をいつも忘れられてしまい、イライラや悲しい思いをしているならば、感情的にならないように「あなたが私の頼んだことを忘れてしまったので、私は悲しい気持ちになった」と冷静に伝えることが望ましいです。そして「どのようにしたらこの問題を改善できるか、一緒に話し合いたい」と提案してください。
うっかりした忘れ物が多い場合は、スマートフォンを使ってリマインダーを設定することで対策できるかもしれません。
ここでの注意点は、感情的にならないことと、少しだけ期待のハードルを下げることです。
ADHDは「分かっていてもミスしてしまう」特性です。完璧に改善できなくとも、まずは今より少しでもましになることを期待し、応援してあげましょう。期待が大きすぎると本人だけでなく自分も疲れてしまいます。
③第三者を交えて相談する
そして最後に、あなたが思いつめすぎないことが大事です。育児で多忙を極める日々とは思いますが、一時預かりなどの保育サービスも適度に利用して、友達に愚痴をこぼす、美味しいものを食べるなど、ストレスをため込み過ぎないよう工夫しましょう。
カウンセリングルームすのわが運営するADHD交流会には、夫婦で参加されている方も多くいらっしゃいます。
自分や夫婦だけで抱え込んでいると苦しく感じる悩みも、他の人と共有することで嘘のように軽くなったり、解決のヒントを得られたりすることもありますから、そうしたコミュニティを探してみると助けになりますよ。もしご都合がつけばぜひ当ルームの交流会へも足を運んでみてくださいね。
それでも夫婦喧嘩が続くようならば、病院やカウンセリングルームを利用し、冷静な第三者に間に入ってもらって、夫婦喧嘩の悪循環を解消するのも一手です。
まとめ
・夫の心理とADHDの症状について理解し、一緒に対策を考えてあげる。そうすることで夫が安心でき、次の仕事も前向きに考えられるようになる。
・妻だけが我慢しすぎない。変えて欲しいことは感情を抑えて冷静に伝え、対策を夫婦で一緒に考える。
・病院やカウンセリングを利用して第三者に相談する。
あなたは夫を気遣う思いがある優しい人です。あなたがADHDについて正しく理解し対応していくことで、きっと夫も前向きに自分のADHDと向き合っていくことが出来ると思います。
一方、優しい人は多くのストレスを抱え込んでしまいがちです。自分だけで考えて行き詰まっているようでしたら、一人でクヨクヨせず専門家にご相談ください。その勇気を出した一歩が家族の平和な未来に繋がります。
記事中に出てきた交流会についてはこちらのページに記載しています。